8回134球2失点。
松坂のリベンジ。
最低限試合を作る。
エースの役目は十分果たしたと言えるだろう。
マウンド上の松坂の顔。
プロに入ってからの6年間に何を見つめてきたのか、それが今日の試合に出ると思っていた。
それが、叱られた子犬のようにおどおどする顔か、船の舳先に立ち、寒風吹きすさぶ中ひたすらに遠くを見つめる顔か、それを確かめたかった。
そのどちらの範疇にも入らなかったが、少なくとも<立ち向かっていた>ように思う。
さあこれで第7戦だ。
「もしかしたら名古屋まで戻ってこないかもしれませんよ。」
2戦が終わって言った落合監督の言葉。
あれが悪手とならなければよいが・・。
川上が打たれ、今日は松坂が竜打線の餌食となった。
野球というのは難しいスポーツである。
あの場面で立浪にスリーランが出るところが、いかにも日本シリーズである。
あまり趣味がいいとは思わないが、松坂の表情がアップになった。
顔面蒼白である。
必死になって取り繕うとしている顔だ。
これで1勝1敗。
まだ挽回の余地はある。
もう一度松坂は投げる機会があるだろう。
その試合こそ、松坂の6年がいかなるものであったのか、あぶり出しのように浮き上がってくるものと思う。
私生活の匂いすら鼻先を掠めてくるだろう。
その時の松坂がマウンド上でどんな顔をしているのか。
どんな表情であれ、僕はそれを心に焼き付けようと思う。
21世紀活字文化プロジェクトというのがあって、二日酔いを押して池袋まで行ってきた。
「1行を探して」という題で、作家の伊集院静氏が母校立教大学で講演をしたのだ。
講演といっても堅苦しいものでなく、ヤンキースの松井の話や立大時代の野球部の話が主だった。
相変わらずのダンディー振りで、濃紺のスーツの上下にシャツというお決まりのいでたちであった。
僕の隣に座っていた主婦の二人連れは、パンフに印刷されていた氏の写真を見て、「やっぱりカッコいいね」なんてささやきあっていた。
ちなみに、氏は「ひどい二日酔いでして・・」と言っていた。
以前イチローと対談した際、部屋に入っていった氏の前で、イチローは帽子をかぶり、椅子に座ってひじを突いていたということで、「私は君と対談するつもりはない」と言って部屋を出て行ったことがあったそうだ。
なるほどね、と思わせる。
事あるごとに「松井は、松井は」と言っていた。
松井は、出版社から「あなたが会いたいと言う人であればどんな人でも対談させてあげますよ」と言われ、「それでは伊集院静さんに会いたいです」と言ったのだそうだ。
ジョッキーの武豊も、尊敬する人はと聞かれ、伊集院静さんと即答したということを以前読んだことがある。
不思議な人なのだろう。
帰り際、立教の校舎をしばらく見上げた。
大学入試以来であるが、ギターを抱えている若者や熱心に語り合っているサークルのグループを見て、社会に出てからの自分の10数年は一体何だったのかと思った。
確実に失っているものがあるのだと思った。
ちなみに、氏は急用ができたとかで、講演が終わるとその場を後にしたのだが、ひょっとして京王閣にでも行ったのではないか。
その京王閣初日は、武田豊樹の強かったこと。
あの小橋が一瞬にして離されたものな。
目の覚めるような捲り一閃であった。
162試合で262本の安打。凄い記録だ。日本でも大リーグでも最多安打のシーズン記録はイチローのものとなった。日米通算で2,000本なんてせこいことを言わなくても、あと5、6年で大リーグ2,000本安打を達成するだろう。
イチローの打撃は日本人の域を超えているのだろうか。あるいは日本人だからこそ成し得たのだろうか。私はおそらく後者だと思う。
日本の野球と大リーグとは似て非なるものであって、どっちが上とか下とかいう類のものではないように思う。例えば日本で全く芽が出なかった大家がエクスポズではエース級の働きをしているし、それ程ではないにしても野茂も大リーグの水の方があっているように見える。
イチローの凄いところは似て非なる2つの「野球」において「前人未到」の数字を叩き出したことである。
マグワイヤとソーサによってマリスの本塁打記録61本が破られた記憶も新しいうちにボンズが73本を達成したが、イチローの記録は暫くは破られないだろう。日本での210本と同様に……。