August 31, 2004

ランナー。

「お客さんちょっと待ってて、今場所確認してくっから」
そう言って運転手は車を降り、対向車線の路肩に停車していた同僚のタクシーへ駆け寄っていった。
観光案内のパンフレットにはきちんと名称が載っていたはずなのだが・・。
再びタクシーは走り出した。
福島県須賀川市。
雨だけを心配していたのだが、どうやら何とかもちそうである。
数年前から一度は訪れてみたいと思っていたある記念館に僕は向かっていた。
タクシーが停まった。
「ここですか?」
その問いかけに、「この先だと思うんだけど」とあいまいな返事。
そうか、地元のタクシー運転手にとってもそこはもうそうした場所であるのか。
なんだかやり切れなくなってきたが、道端の看板には、確かに記念館がこの先にあることを示していた。
まあいい、その辺で聞いてみようとしばらく歩いていくと、家の庭で作業をしていた人が目に入ったので声をかけてみた。
「すいません、円谷幸吉記念館はこの近くですか?」
すると、その男性が顔を上げ、「うちですが」と言った。
普通の家である。
玄関を上がり、すぐ左手の廊下に面した部屋がその<記念館>であった。
一面の壁にはたくさんの表彰状が飾られている。
「お客さんはどこから?」
「東京からです。」
「それはまあ遠くから。ゆっくり見ていってくださいな。」
正面には大きな円谷の写真が額に納まって飾られている。
左右の棚にも、おびただしい記念品の数々がきれいに並べられていた。
「これが東京オリンピックのメダルです」
先ほどの老人が棚の鍵を開けて見せてくれた。
「これが遺書です」
ここを訪れてみようと思った直接の動機の品が、やはり額に入れられて僕の目の前に置かれた。
朴訥な字である。
最後の「幸吉は父母上様のそばで暮らしとうございました。」の文字に、息が詰まる。
谷口、有森、藤田らのマラソンランナーがここを訪れたときの写真も飾られていた。
「これがね、オリンピックの記録ですよ。」
そう言って老人が引き出しから出してきたものは、円谷が走ったオリンピックからシドニーまでの男女のマラソンのタイムやメダリストを記録したノートだった。
「明日はどうですかね?」
「どうかね。坂がきついんでしょ。頑張って欲しいけどね。」
老人は答えた。
「次は北京でしょ。北京なら時差は大したことないんでしょ。今は夜遅いもんねえ。」
老人は夜遅くまで起きているのが大変だというように語った。
館を出る際にも、「今日はご苦労様でした」と送ってくれた。
帰りは駅まで歩いて戻った。
きれいに舗装された道路を、それほど多くはない車が走りすぎてゆく。
円谷がアベベについての印象を書いたメモを僕は思い出していた。
「超人的で言うことはない」とあった。
その超人打倒を目指して、円谷は練習することがあったのだろうか。
上空の風に雲が流れ去ってゆく。
それを目で追いながら、きっと明日は眠気を我慢してあの円谷のお兄さんはテレビを見つめるのだろうと思った。
円谷は、今も走っているのだ。

投稿者 mustbeangel : 07:34 PM | コメント (0)

August 27, 2004

ブロンズの夏。

長嶋JAPANの夏は、ブロンズの夏となった。
予選リーグに続き、2度までもオーストラリアに苦杯をなめた。
0-1のスコアーどおり、いい勝負ではあったが、詰めのところで一本が出なかった。
ディンゴ、ウイリアムズと、日本にもおなじみの選手にしてやられたのは何とも皮肉である。
プロだけで構成された、言うなれば日本のドリームチーム。
その戦いぶりを、長嶋茂雄はどんな気持ちで見つめていたのだろうか。
アテネの過酷な天候、長時間のフライト等を考慮し、現地での指揮を断念した。
しかしその決断に至るまでに、俺は死んでも行くと近親に直訴したのだそうだ。
まさに今回の戦いを、野球人生の集大成と位置付けていたに違いない。
背番号3に触れてグラウンドへ出て行く選手達の姿に、長嶋も最後には納得したのではないか。
「これだけは言えます。オリンピック前と後では、僕は全然違いますよ。」
攻守に活躍した城島は、己の成長をはっきりと口にした。
そのきりっと引き締まった表情に、一縷の希望の光を見た思いがした。

投稿者 mustbeangel : 09:02 PM | コメント (0)

August 24, 2004

亡霊

40秒近くあった差がじわじわ詰まってきて10秒台になる。見ている方でさえ異常な長さに感じた最後の5km、野口みずきは何度も何度も後ろを振り返った。10数秒の差だと観衆の声援によって後ろの選手との距離がわかるのだという。だんだんと近づいてくるその距離を感じながら走るラスト5kmは野口にとっても永遠にも感じる長さだったに違いない。だが、その差は10秒より詰まることはなく、野口は最初にゴールに飛び込んだ。

ラドクリフが36kmで脱落したようにオリンピックや世界選手権のマラソンと各国で行われるマラソンとは別物である。前者が自らの判断でペースを決めて走るものであるのに対し、後者はその選手に合った一定のペースをペースメーカーが作ってくれるものだからである。高橋やヌデレバの凄いところは、距離以外は性格の異なる2つの「マラソン」のいずれにおいても一流であるところだ。そして2時間21分台の記録を持ち、世界選手権で敗れたヌデレバに雪辱した野口にもまた高橋やヌデレバのようになれる可能性が充分にある。

過去のオリンピックでの成績を見ても3人全員が入賞した例はなく、野口の優勝がなくても、いいメンバーが選ばれたのだと思う。東京で高橋を破ったアレムの後半の失速をみれば、高橋が出ていても優勝争いに絡んだかどうかは微妙なところだ。それでも、優勝しなければ「高橋が出ていれば」という声は必ず出たはずだ。そういう意味では、野口はヌデレバのみならず「高橋の亡霊」にもまた勝ったのだと思う。

投稿者 yotaro : 01:32 AM | コメント (0)

August 23, 2004

ひととき。

何億光年のきらめきは、彼に何をもたらしたのだろうか。
「優勝するためには一か八かいかなければならない。」
渾身の5投目の投てきがネットにかかる。
残る最後の一投を前にして、頭の中を真っ白にするために、室伏は寝転がって夜空に輝く星を見ていたのだという。
28cmという差がいかほどのものなのか、僕のような凡人には分からない。
しかし、眠気さえ吹き飛ばしてくれた6投目を投じた室伏の表情、声、身振りを、僕は決して忘れないだろう。
ミケランジェロが生きていたなら、あの瞬間の室伏は、彼の格好のモチーフとなったのではないか。
オリンピック発祥の地アテネ。
聖地に立つ雄々しい戦士。
スポーツの美神は、確かに室伏に舞い降りたのだ。

投稿者 mustbeangel : 11:26 PM | コメント (0)

August 21, 2004

明暗。

オリンピックたけなわである。
北島の金に始まり、体操日本、陽はまた昇るの金。
井上康生の敗退はまさかであったが、人間いいことばかりではないということだろう。
スポーツは容赦がない。
その分鈴木の芸術品の足技一本は素晴らしかった。
個人的には、親父との10年の誓い、何とも朴訥な風貌の泉浩の銀メダルが嬉しかった。
決勝での負けっぷりといい、荒削りな感じはまだまだ先が望める器である。
長嶋ジャパンも台湾にサヨナラ勝ち。
一つの勝利にあそこま一喜一憂する選手の姿をこれまでに見たことがあっただろうか。
そしていよいよ明日は女子マラソンの号砲が鳴る。
史上最も過酷なコースと言われる中での戦い。
おそらく一人一人脱落していくサバイバル戦となるだろう。
メダルラッシュの勢いに乗じて陽をもう一度昇らせてもらいたい。
(付記)
初ホームランのおまけまで付いた工藤の200勝。
放送もされずに何ともツキが無かった。
あの名古屋電気の工藤がなあ。
立派の一語。

投稿者 mustbeangel : 11:10 PM | コメント (0)

August 17, 2004

雨の奴。

待望の1点。
よし、いける。
ウォーミングアップする背中がそう語っていた。
降りしきる雨。
ぬかるんだグラウンド。
洒落ではないが、泥臭い野球に徹した方が勝つ。
そんな気がしていた。
何より、まだまだという雰囲気が千葉経済大付属からぷんぷん匂ってくる。
野球は何が起こるかわからない。
特に高校野球の場合は。
ツーアウト、3塁。
何でもないサードゴロ。
ファーストに送られてゲームセット。
誰もがそう思った瞬間。
早く終わりたい、そんな気持ちが先走ったのではないか。
4番サードがファンブル。
そしてファーストへの暴投。
そこまで来ていた勝利が、するりと指の間から流れていった。
苦笑いするダルビッシュの顔に雨滴が落ちる。
雨の奴。
そう、雨がいけなかったんだ。
そう思うしかあるまい。

投稿者 mustbeangel : 11:04 PM | コメント (0)

August 14, 2004

一陣の風。

いよいよアテネ五輪が開幕した。
開幕式の模様をダイジェストで見たが、お国柄を象徴した様々な衣装で行進する姿というのは、いつ見てもいいものだ。
選手すべての表情に、オリンピックに参加できた栄誉の色が浮かんでいる。
長嶋JAPANの合言葉・「FOR THE FLAG」。
国を代表することの重み。
上原や松坂は「金メダル以外ありえない。」と、口を揃えて語っている。
それぐらいの緊張感があっていいし、そうした中で勝つことに意味があるのだと思う。
例の合併問題。
選手会側はストライキも辞さずの構えとなってきた。
長嶋JAPANの勝利は、いろいろな意味で重い。
地中海から、一陣の風を吹き込んで欲しい。

投稿者 mustbeangel : 11:07 AM | コメント (1)

August 10, 2004

汚れ。

このところ全く日記を更新できていず、それには理由がいろいろあるのだが、今週からオリンピックが始まる事でもあるし、頑張って書きたい。
これを一日記とするところが、僕の意地汚さであろう。

投稿者 mustbeangel : 12:20 AM | コメント (0)

August 08, 2004

アジアカップ連覇はいいけれど。

中国人の陰湿ともいえる反日応援が連日行われたアジアカップも結局日本の連覇で終わった。
決勝以外も含め、試合を見た感じでは、多少バイアスのかかった見方なのかもしれないが、スタンドの異様な雰囲気のみならず、ピッチでも日本に不利な笛が吹かれているように感じた(決勝ではそういう感じは受けなかったが。)。
こうした中で優勝できたことは、選手達にとって自信につながるだろう。
以前に書いたように私自身はジーコ監督をベターな選択だとは思っていなかったのだが、それは、ジーコの能力以前にトルシエ式(欧州的?)の組織的な戦術がジーコ(ブラジル的?)の個の能力を重視する戦術に変わるということで、トルシエが創ってきたものをリセットすることの能率の悪さからであった。しかし、テストマッチでもうひとつな試合をしていても、肝心なときに結果を出したことからすれば、ある程度のレベルがあれば、4年弱という準備期間は十分な時間なのかもしれない、必ずしも10年とか20年先を睨んでので強化を行っていく必要はないのかもしれないと考えを新たにした大会であった。
茶の間でテレビを見ている私のような人間には中国人の狭量な態度は不愉快に過ぎるものであったが、完全アウェイの中で全試合を戦ったことは、選手にとってはいい経験となったのだろう。試合には勝ったし、選手にもよい経験ができた。それだけなら、言うことのない大会であったのだが、私には依然として苛立ちが残るのである。
日本のことなど何もしらない中国人達が、なぜ日本に反感を持つのかと言えば、中国政府が半日教育を行ってきているからに他ならない。確かに、第二次世界大戦時に、日本軍が中国人を抑圧したという歴史がある。それを過去のことだといって忘れてしまう必要はない。だが、戦後60年近くを経て、なお、一方で日本に多大な経済援助を求めておきながら、その裏では半日教育を行っている中国政府のやり方はフェアではない。このようなおかしな国で4年後にオリンピックが行われると考えるとぞっとする思いである。
能天気にもスタンドで「日中友好」の文字の入った日章旗を掲げる日本人サポーターには苦笑してしまったが、まだこちらの方がかわいげがあるだけマシだと思った。

投稿者 yotaro : 05:17 AM | コメント (0)

August 07, 2004

それはないだろう。

これはひどい。
酔っ払って帰りテレビをつけると、NYメッツ・松井のエラー特集が放映されていた。
ひどいと感じたのは、そのスローイングの雑さである。
サイドスローのゆえか、一塁手の左に大きくそれてゆく。
向こうのアナウンサーも、そうしたプレーにはすっかり慣れているようで、「松井にまっすぐ投げろと言ってもそれは無理な話だ。」と自嘲気味に語っていた。
今週のスポーツ紙には、練習前に眼鏡をかけている松井のスナップが載っていた。
しかしあのスローイングでは、眼鏡もくそもないのではないか。
あれほどひどい選手だったのだろうか。
攻・走・守3拍子揃った一流プレーヤー。
それが西武の松井ではなかったのか。
あれが松井の本当の姿であったなら、僕らはあまりにも松井の真の姿を見ていなかったのかもしれない。
日本プロ野球合併問題。
パリーグの選手を見る機会が今より増えるのであれば、それも良いのではないか。
変なところでそう思ってしまった。

投稿者 mustbeangel : 09:24 AM | コメント (0)

August 03, 2004

ようやく……。

「4000番台初の」と冠せば、歴史的な快挙には違いないのだろうが、田村隆信ももう26歳とまだ若手には違いないが、驚くほどの若さではない。インパクトでいえば、(見てはいないが)今村豊の笹川賞はもちろん、服部幸男のダービーや総理杯の方が上だろう。
同年代のライバルである池田浩二の方がなんとなく若さあふれるレースをするように思う。
とまあ、若干ネガティブな感想を並べてみたが、凄いことには変わりない。
何年前だったか、デビュー間もない頃の田村が若松の新鋭リーグの優勝戦に5号艇で乗ってきて、「これで勝ったら怪物だなあ」なんて言ってたら本当に勝ってしまい驚いたことを思い出す。その時と同じ5号艇というのも奇遇ではある。
田村や池田のような若い強豪選手は総じて顔がいい。美男子だというのではなく才気が表情に漲っているのだ。おそらくくすんだ表情をした自分も見習わなくては……。

投稿者 yotaro : 01:53 AM | コメント (0)

August 02, 2004

夜の帝王

やはりナイターになれば山崎は強い。
夜の帝王を自認するだけあって、予選は1着なしでも節イチ宣言まで飛び出した。準優勝戦のスリットは少しのぞいただけだったようだが、スリット後の伸びで内3艇は簡単に捲くられてしまったから、確かにモーターは完調なのだろう。
上瀧は1対1の勝負だと田村にスピード負けすることが明らかになってしまったようだ。ただ、競艇は1対1ばかりではないから、これで田村が上瀧を追い越したとは言えないのが面白いところである。
優勝戦は、実績のある松井、山崎が2、3号艇でも村田が普通にスタートを決められれば勝てるはずだ。しかし、プレッシャーとの戦いだけならまだしも、2、3号艇の2人が楽な侵入を許す可能性は低いかもしれない。枠番で人気は内3人で分けるだろうが、勝つのは山崎か松井というのが順当な見方だろう。ナイターということを考えれば山崎優位はやむを得ない。
スタート行くタイプの田村、守田が踏み込み過ぎないかが心配だが、一発あるなら田村がタッチを決めたときだろう。それも山崎の伸びが強力だけに厳しいかもしれないが……。
スタート事故の相次いだ準優勝戦のモヤモヤを払うようなレースが見られるとよいのだが。

投稿者 yotaro : 01:30 AM | コメント (0)